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トップランナーインタビューVol.2
ブランディングから始まるパッケージデザインの魅力
株式会社BULLET代表 アートディレクター・デザイナー小玉文

プロフィール:こだま・あや 1983年大阪生まれ。東京造形大学デザイン学科グラフィックデザイン専攻領域卒業
株式会社粟辻デザインへの7年間の在籍を経て2013年、株式会社BULLETを設立
東京造形大学 講師

普段のお仕事は?
石原
BULLET Inc.のお仕事ってどんな仕事なのでしょうか?
小玉
弊社は、グラフィックデザインの制作会社です。他社と比べて、パッケージデザインのお仕事の割合が少し多いですね。例えば、お菓子屋さんを一から立ち上げるという案件の場合には、まずはロゴを作り、必要なパッケージを作り、そのビジュアルイメージを作り、webサイトのデザインなどもトータルに手掛けています。
石原
単発でのお仕事などもあるのでしょうか?
小玉
もちろんあります。例えば、バレンタインやクリスマスなど季節限定のパッケージのお仕事、また書籍の装丁や雑貨のデザインなども手掛けています。
石原
様々なお仕事を手掛けていらっしゃるんですね。社内の仕事の分担って、あるのでしょうか?
小玉
現在社員5名なので、基本的には、全体のディレクション・デザインを私(小玉)が行い、それを社員に振り分けて、全員でカバ―して仕事を進めています。
パッケージデザインの仕事について

石原
なぜパッケージデザインのお仕事が多いのですか?
小玉
起業する以前は、粟辻デザインというデザイン事務所で働いていたのですが、当時知り合ったクライアントさんとずっとお付き合いがあり、現在もご依頼をいただいているというケースもあります。また、弊社のパッケージデザインの事例をご覧いただいた方からはじめてお仕事のご依頼をいただくということもありますね。
石原
では、パッケージデザインに特化しているわけではないのですね。
小玉
はい、パッケージに限らず、グラフィックデザインと呼ばれるものは基本的になんでも制作しています。ただ、前職からの経験も含め、パッケージデザインに関する実績が割と多いので、紙や印刷加工・パッケージの構造や仕様には、比較的強いといえるかもしれません。
クライアントのイメージを大切にすること

石原
貴社の得意とするデザインのお仕事の流れを教えてください。
小玉
ご依頼をいただいてから、まずは「どんな目的のためにデザインが必要なのか?」について、打合せ・ヒアリングを行います。弊社にご依頼をされている時点で、クライアントさんには、デザインによって達成したい目的があります。まずはそれをお聞きすることが大切です。例えばパッケージデザインであれば、商品を面白く奇抜に目立たせたいのか、それともきちんと真面目な性格に見せたいのか、コストは低く抑えるべきなのか、高価でもよいのか?と、それぞれのクライアントさんの企画や目的によって、デザインの考え方が全く変わってくるんです。
石原
具体的に、どのようにヒアリングを行うのでしょうか?
小玉
お客様によっては、例えば「色は赤にしてください。」などと、はじめから具体的なご希望がある場合もあります。しかしその場合、それをそのまま鵜呑みにするのではなく、「なぜ赤であることが必要なのか?」を確認する必要があると思います。ヒアリングを続けていくうちに、実は「赤が必須」だったのではなく、「目立つことが必須」だったという目的の本質が見えてくることもあります。つまり「なぜ、その要望があるのか?」という根本的なところを探ることが、非常に重要だと考えています。しっかりヒアリングを行うことによって、適切なデザインをご提案する事ができます。
自分自身のデザイン表現を目指して独立

石原
所属していた会社でのご経験を生かして、独立された小玉さんですが、そのきっかけとなるタイミングなどはあったのでしょうか?
小玉
入社したときから、「いつかは独立したい」という気持ちはありました。はじめは、2年ぐらい実務経験を積めば独立したいな……などと甘く考えていたのですが、いざ2年経ってみると、学ぶべきことがまだまだあることに気づきました。このまま独立しても路頭に迷ってしまう、と。また、せっかく自分を雇ってくれたことに対する恩義を果たしたいといいますか、会社の中で役に立ってから辞めたいなという気持ちもありました。いろいろと考え直して、30歳になったら独立しようと目標を変更しました。
石原
準備を着々と進めて独立されたということですが、独立当時はどんな感じだったのですか?
小玉
最初は、奥渋谷にあるレンタルオフィスからスタートしました。2年弱ほどそこを本店にしていたのですが、徐々に広いスペースが必要になってきたことから、現在の東中野のオフィスを借りることになりました。

石原
素敵な事務所ですね。現在社員の方もいらっしゃいますが、社員の採用をする際に、小玉さんならではの入社の決め手になる条件はありますか?
小玉
一つだけあります。いずれ自分も独立したいという考えを持っているような、上昇志向のある人がいいですね。普段私は仕事の中で、デザインの色・形・文字について、何度も修正や軌道変更の指示を出します。できる限り良いものを作るためには必要なことです。しかし、自分も良いものを作りたい、そのための知識や経験を得たいという意識を持っている人でなければ、こういった細かい指摘は「うるさいな」としか感じられないでしょう。良いものをつくるための努力を理解・共感し、ともに仕事ができる人が、理想です。
石原
小玉さんのもとで働くことは、本気で独立を考えている方にとって、とても良い経験ができそうですね。
今のオフィスは4年目、社員は5名に増えました。
石原
最初は一人で始めた事務所、社員の方が増えて、何か変わりましたか?
小玉
社員が増えてよいことばかりです。一人だと、発案も作業も何もかも自分一人で行いますので視野が狭くなってしまいがちですが、間に人を介することで、これまでよりもデザインを客観的に判断することができ、短時間で何倍もの仕事ができていると感じます。また、自分とは違うアイデアを持っているので、これまでよりも表現に広がりが出ていると感じています。
石原
社員間のコミュニケーションで、気にかけていることなどありますか?
小玉
お昼の時間は、仕事以外の雑談をするように心がけています。でも、私が隣の部屋にいるときに、若手社員だけの盛り上がった会話が聞こえてくると「私がいないほうが気楽でいいのかも…」と思うときもあります(笑)。また仕事においては、複数の案件を時間内に終わらせるために、非常に端的で一方的な指示を出してしまいがちになってしまうので、時間があるときには、社員教育のために丁寧に細かく指示を出して指導できるように気を付けています。
石原
これまで事務所を経営されてきて、特に苦労されたことはありますか?
小玉
私は矢面に立たないといけない役割なのですが、私自身、それはあまり苦ではないと感じています。むしろ、自分が判断した結果が返ってくるということが分かりやすくて、この状況は好きです。
「ドン引きしたよ!」がほめ言葉??個性溢れるグリーティングカード

石原
イベントで小玉さんの会社のグリーティングカードを見て、すごい!と思いました。お仕事で頂いた制作物で採用されなかった技術や、ボツになった素材などを使って、作り始めたと聞きましたが、いつから作られているのでしょうか?
小玉
前の会社に入社して2年目からグリーティングカードを作り始めました。グリーティングカードの良いところは、届いたことがきっかけで、久しぶりな方からご連絡や新しいお仕事を頂くなど、コミュニケーションが持続していくことだと思います。
石原
干支をモチーフに様々なデザイン、形、素材のグリーティングカード、これがポストに入っていたら…と思うと毎年楽しみになりそうですが、このデザイン案は小玉さんがされているのですか?
小玉
はい、デザインは私が考えています。届いたときに「なんだかすごいのが来た!」とインパクトを受けてもらえるといいなと思って作っています。デザインに興味がある人だけではなく、子供や、普通のおばあちゃん、海外の方が見ても面白いと感じてもらえるようなものが理想です。これまで最高の誉め言葉だと感じたのは、「見た瞬間、ドン引きしたよ!」と言われたことです(笑)。
石原
巳年の年賀状(百人一首がバラバラになったようなカード)は、送れるのかしら?というのが私の第一印象でした。また、金魚すくいのポイのデザインのカード、アイスクリームの蓋のデザインなど、目を引かれるものばかりですが、小玉さんのデザイン制作の“元”になっているものはあるんでしょうか?
小玉
うーん、最終的には、面白いと思える「直観」が大事だと思っています。特に、普段デザインの仕事とは関係なく経験していることの中に、ヒントがあると思っています。例えば、切手はできるだけ少ない枚数を貼るのが普通ですが、あるとき、5円などの少額の記念切手が大量に貼られた郵便物が届いたんです。それを見たときに、大量に貼ると切手自体がグラフィックになるんだと思って。アイスクリームの蓋のグリーティングカードでは、蓋の裏についたアイスに絡める形で、切手を複数貼ってみました。
石原
切手自体をデザインとしたカードを受け取った方は、間違いなく変わったカードが届いたと感じますよね。これからも小玉さんのグリーティングカード制作、楽しみです。社員の皆さんも、カードは作られたりしているんすか?
小玉
やってみてほしいとは思っていますが、本人次第ですね!
大学での講師活動
石原
大学で講師をされていらっしゃいますが、若い方から何か気づかされることなどありますか?
小玉
物事の考え方、新しい切り口、感性などには、年齢は関係ないと感じています。
石原
若い方のほうが、社会人のルールに染まっていないので、柔軟ですよね。
小玉
そうですね。社会経験を積むうちに得る「普通」や「常識」を客観的に見ることができますし、柔軟な疑問を持つことができると思います。疑問を持つことは、とても大事なことだと思います。
石原
週に2回、グラフィックデザインの基礎やパッケージの講義をされていると伺いました。講師をされていて、授業を通して彼らに伝えたいことはありますか?
小玉
真逆のことでかもしれませんが、2つあります。一つ目は、デザインというのはアートと違って、果たさないといけない目的があるということです。好き勝手に物を作ればよいというわけでなく、自分が設定した目的を達成できているかということが大切です。二つ目は、自分の独自の考えをきちんと持てる人になって欲しいということです。先生に言われたことが必ずしも正しい回答というわけではなく、自分の頭で考えることが大切です。
デザインを仕事にしたい方への一言アドバイスをお願いいたします。
小玉
デザインの仕事は、世の中との結びつきがあって成立している仕事なので、デザイン表現の技術の勉強だけではなく、世の中のいろいろなことに興味を持つことが、大事なことだと思います。何のためにデザインが必要なのか、自分は世の中に対してデザインで何がしたいのかを考えることが、大切です。
石原
お客様の想いをブランディングし形・デザインをしていく作業に対する考えや、社員に対する想いなど、小玉さんのプロフェッショナルな姿勢がとても印象的でした。ありがとうございました。

 

小玉さんが手がけたおススメ商品

有限会社コスモテック:ナスカの電子回路(マスキングテープ)

謎の電子回路、ナスカの地上絵、くさび形の文字などが描かれたマスキングテープ。
株式会社BULLETの社用グッズとして使用する予定であったが、Twitterの反響を受け、2015年12月1日~2016年1月4日の期間限定で販売された。 また同社は魅力的な企画、商品を作っており、デザインフェスタなどにも出展している。

小玉さんが手がけたお仕事事例

株式会社かみなり舎

NEWYORK PERFECT CHEESE
JR 東京駅南通路の洋菓子店のロゴ・パッケージ・メインビジュアルデザイン。

 

株式会社竹尾

2015年に竹尾が発売したパッケージ用紙「スノーブル-FS」特別見本帳のデザイン。
⑴白の美しさ、⑵手触りのよさ、⑶パッケージへの適性、⑷豊富な厚さ展開、⑸優れた印刷加工適性、という5つのポイントを形にしたデザイン。
パッケージに使用した際のイメージを伝えるため、見本帳自体を箱型とし、箱を開けると印刷加工の施された組箱が入っているという仕様になっている。